「ん……」 ふと聞こえた女の声に、窓辺に立っていた彼は開け放っていた窓の硝子を閉めた。 どちらかというと、暖かい季節だが、それでも夜風に肌を直接晒していると寒かったのだろう。 とりとめのないことを考えながら、彼は静かに視線を背後にやり、落とした。 簡素な寝台。 飾り気のない、白いシーツが波を作っている。 月光に照らされる、白い肌。 艶やかな、ひそかな輝きを放つ白さ。 投げ出された腕に絡んでいる長い黒髪が更に際立てている。 彼は無防備な寝顔を晒して深い眠りの海に沈んでいる女をじっくりと鑑賞した。 華奢な体。 大人の女の色香と、少女の清純さを兼ね揃えた肢体。 自らの価値を知らぬがゆえに、匂い立つような美しさを秘めている。 何も知らない者は思いもよらないだろう。 今は閉じた瞳に苛烈な輝きが宿ることを。 その唇から零れる怨嗟の言葉を。 細い指先が導く破壊の力を。 普段の彼女なら、彼の目の前で、こんな風に眠ることはない。 だからこそ、そうなるように彼は追い詰めてみた。 多少の遊び心と、あるかないかの本音を混ぜて。 与えられた熱に抵抗らしい抵抗もできず受け入れさせられた彼女は意識を手放す瀬戸際まで彼を睨みつけていた。 きつく噛み締めていたせいで赤く色づいた唇から溢れる声に、彼女は自身と彼に怒りを覚えていた。 だが、今、彼女は穏やかな夜の静寂に微睡んでいる。 象牙のような肌に浮き上がる痕を見つけて、彼は苦笑した。 (後で、怒るんだろうな) だが、彼の刻印は一種の封印。 日々、本人の知らないうちに増長していく彼女の力が暴発しないための、必要な措置だ。 彼が与えた力は着実に彼女自身のものになりつつあり、変化し続けている。 いつかは、彼の戒めを破るほどに強大に、そして掛け離れたものへと――。 彼の封印は力の暴発を抑えこそするが、その変化を止めるものではない。 むしろ、その変化の行き着く先を見ることを彼は望んでいた。 (だから、仕方ないんだよ) くすくすと密やかに笑いながら、青年は寝台に近づく。 そして、そっと体を傾け、彼女の白い背中――そこに潜んでいる変化の象徴がある場所に、くちづけた。 (まだ、壊れてもらっちゃ困るからね) |
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