自らの前に立ち塞がる『神の手足』を見つめ、彼は不愉快を隠そうともしなかった。


「下らない」


 一言断じた瞬間、数人の姿が闇に消失する。


 白き翼を有する者たち。
 同じ意志の許、同じ目的のために創り出された者たち。
 造作の違いは多少あるが、その魂の本質は全く同じだ。

 何の区別もない。


 彼らが各々の『名』を持つことさえ驚きを覚える。


(無意味だ)


 同じ存在。
 失われても代わりがいる。

 ただ、違うのは創り出された順番。


「こんなもので、僕を止められると思っている訳?」


 吐き捨てるように呟いた言葉に応える者はいない。
 否、彼自身、応えを求めている訳ではない。

 ただ、ひたすら愚かしく、いっそ哀れなほどで。


 だから、彼は笑った。


「――誰が最初?」

 彼の問いに、天使と呼ばれる者たちはわずかに反応した。


「創り出された順番に、消してあげるよ」


 静かに微笑み、彼はゆっくりと髪を掻き揚げた。


「創造を司るアイツでも、全部消してしまえば作り直すのに時間がかかるだろうからね。全員、平等に終わらせてあげるよ。それが嫌なら、そこをどくんだね」
 そう忠告しながら、彼は誰も従うことはないと知っていた。
 知っていて、試したのだ。

 神のために創造されたものが、神を裏切れるのか。

「あぁ、心配しなくていいよ。ちゃんと順番は数えるから。僕が出て行ったあと、アイツが創る数に悩まなくていいように」


 ざわりと空気が震えた。


 その感触に、彼はようやく一息吐いて、翠の双眸を薄く伏せた。


 次の瞬間、天使の一人が弾けて霧散する。


「!?」


 驚愕して立ち尽くす『人形』を無視して、彼は鋭く視線を走らせた。


(1、2、3……)




「……今回限りだよ、君の思惑に乗るのはね」



 その声音に嘲りと慰めの響きが含まれていたことを気付いた者は誰もいない。










018:ハーモニカ     020:合わせ鏡

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