どれくらいの時間が過ぎただろう。 彼女は唇を噛み締めて、正面を見つめていた。 最初思案している様子だった顔はいつの間にか苛立ちが交じったものへと変わっている。 薄暗い地下神殿。 古びた松明だけが光源の一室。 人々から隔絶された領域に封じられたもの。 「ねぇねぇ、そろそろ降参する?」 どこか楽しそうな響きを交えて届いた声に、彼女は厳しい顔つきで振り返った。 「まだだ!!」 視線の先には崩れかかった壁に凭れている一人の青年。 不機嫌な彼女とは対照的に微笑みを浮かべている。 ゆらゆらと揺れる炎が作り出す陰影は青年が裡に潜ませている獰猛な闇を束の間浮き彫りさせていた。 「だって、もう二時間だよ〜?」 「煩い!」 彼女が怒鳴りつけると、青年はわざとらしい溜め息を吐いて見せた。 「ホント強情だよね……」 彼女は強く唇を噛み締めると、問題の物体に視線を移した。 部屋の中央に並んでいる二つの台。 その上に浮かんでいる二つの球体。 だが、触れることはできない。 (ただの幻? 何かの罠?) 否、そんなはずはない。 ここに至るまで多くの罠があった。この部屋が最後だ。 そして、ここに彼女の求めるものがあると案内したのは――人の気も知らず笑っている青年だ。 油断できない人物ではある。 だが、ここでつまらない嘘で騙すほど酔狂ではない。 特に、この件で彼女を騙すと、本気で殺す気で、容赦なく叩きのめされることくらい理解しているはずだ。 「うーん、じゃあねぇ、ヒントを上げよう!」 「ヒント……?」 胡散臭い。 それと明らかに分かる眼差しを注がれても、青年は気にした様子もなく頷いた。 「そう、ヒント」 何か企んでいる。 直感的に察して、彼女が断りの言葉を紡ごうとした瞬間。 ふわりと掠めるような温もりが声を奪った。 「――――ッ!!」 「とりあえず、先払いね」 「貴様!!」 我を忘れて、殺意を漲らす彼女から不可視の刃が放たれる。 しかし、青年はひょいと後ろに下がるだけで避けると、にっこりと笑って言った。 「同じものを重ねることで、一つが現れるんだよ」 「何を言って」 続けて力を放とうと意識を凝らしていた彼女は不意に息を呑む。 そして、慌てて二つの台を見比べた。 全く同じ造りの、二つの台。 そして、触れることの出来ない二つの球体。 彼女はおもむろに台の周りを歩き出した。 そして、ある地点で立ち止まる。 二つの球体が重なって、一つに見えた。 (ここ、か……?) 彼女はゆっくりと手を伸ばした。 しかし、やはり何の感触もない。 (違う――?) その瞬間。 「!」 彼女の手が何かを掴む。 咄嗟に力を込め、そのまま彼女は引き戻した。 そして、ゆっくりと開いて、手の中を確かめると、そこには静かに輝く白い珠があった。 滑らかな表面に、ぼんやりと浮かび上げる不可解な文字。 それは神が忌むべきもののとして封じたモノの証。 天上の扉を抉じ開ける為の鍵となりうる一つ。 地上に隠蔽された、天使たちの影。 「おめでとう」 言葉もなく、見つめる彼女に、青年の祝福の言葉がかかる。 思わず振り返った彼女は青年が優しい微笑を浮かべていることに戦慄した。 もう後戻りはできない。 |
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