世界には同じ存在というものは一つとしてない。


 それを是とするか否とするか。


 彼は両方だなと思った。
 矛盾しているような答えが真実だと。

 同じ種族、同じ性別、しかし、一つとして同じ心は在り得ない。
 たとえ、同じものが好きだとしても、違うことは嫌いかもしれない。

 重なるのは一部であり、全てではない。


 ゆえに、同一の存在などいない。

 しかし。

 世界は神の手によって創られた。

 その点によって、すべてのものは同じである。


 彼を除いて。

 否、今はもう一人。
 彼が見つけ、彼がその手を差し伸べ、力を与えた少女。

 近いうちに完全に彼が与えた力を自らの物とし、神の創造物の範疇から脱し、彼の支配から逃れるだろう、唯一の存在。


「ちょっとだけ寂しいかな……」


 ぽつりと呟き、彼は苦笑した。


 彼は束縛されることもすることも好まない。
 『支配』が専門なのは彼ではない。

 そして、少女も束縛されることを厭う性格だ。


『この力を私のものにしたら、お前など殺してやる』


 それが少女の口癖。
 紛れもない殺意を込めた宣告。

 だが。

(殺せるのかな)

 少女は甘い。
 少女は優しい。

 長い間、側にいた相手を、何の躊躇いもなく殺せるだろうか。

 たとえ、相手が彼でも。


 そう問い掛ければ、是という言葉が返ってくるだろう。
 更に殺意を募らせて。


(だからといって、そう簡単に殺されてあげる訳じゃないけどね)


 ただ、そういう時の少女は震えがくるほど美しい。
 曖昧だった世界が色鮮やかに変化するような錯覚さえ覚える。
 その時、身の裡から沸き起こる衝動はひどく心地良い。


 それは彼のものだ。
 彼から生まれてくる唯一のものだ。


 ふと表情を消し、彼は空を見上げる。
 そして、ゆっくりと双眸を細めた。



「根幹は同じでも、君と僕は違う」


 何故なら、彼は切り捨てることを選んだ。
 それを可能とするものを見つけた。
 それを許せるものを得た。


 視線を戻し、露天商と交渉している少女の背を見つめて、青年は柔らかく微笑む。


(大丈夫、何があったって僕は変わらないから)




――――いつか、この世界を滅ぼすから。



 だから。



「君も変わらないで欲しいんだけどな」










015:ニューロン     017:√

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