すべては最初から決まりきったこと。 そんな風に思えれば、誰も傷つくことなんてなかったんだろうなと彼はふと思った。 偶然という運命。 必然という絶対。 決定を下したのは如何なるものか。 目の前で、鬼気迫る勢いで道を切り進む女を見つめ、彼は嘆息する。 それは感嘆を含んでいた。 彼女は美しい。 激しい感情を発露し、許し難い運命を捻じ伏せるだけの想いを秘めた彼女は何よりも綺麗だ。 全身を朱に染め、白き羽根を踏み躙り、聖域を汚す女。 彼女は何も知らない。 彼女の行動自体すべてが予測の範囲であることを。 この『世界』には途がある。 そして、その途を外さぬための柵も。 彼女が葬り去っている翼ある者たちはその役を担い、同時に来るべき『ある未来』を消そうとするための道具。 天上の尖兵を葬る彼女は『運命の抵抗者』で、同時に『運命の執行者』。 真実を知っているのは、もはや彼だけ。 誰が正しいのか、間違っているのか。 多くの者が女を悪と考えるだろう。 創造主たる神に背き、その滅びを願う彼女の想いなど知らずに、その行為を詰るだろう。 だが、『運命』は彼女を支援する。 来るべき『ある未来』を導くための布石として。 そして、彼はそれを望みもしないが、拒む気もなかった。 すべてが定まったことだったとしても、彼は自らの意志を曲げる気はなく、その選択が結果的に『運命』に沿うものだったとしても関係ない。 彼の願いは彼のものであり、それが叶うなら『運命』すら利用する気だった。 (だから) 彼は徐々に近くなっていく光の根源に向かって哀れみの眼差しを向けた。 「僕は君を否定しないけど、従う気はないんだ」 ただ願うのは苛烈な魂の見つめる先に自らがあること――。 |
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