暗雲が広がっている空。
　分厚いそれはまるで生きているかのようにゆっくりと蠢いている。

　それはまるで何か胎動しているかのよう。

　時折、その奥で閃光が走る。

　そして、轟き渡る音。
　連続した低いそれはまるで何かの打楽器を激しく打ち立てているようだ。

「……八つ当たりかい、それは？」

　今にも雨が降り出しそうな天候を避け、大通りには人影はない。

　ただ一人、彼以外。

　薄闇を閃光が照らし、大地を揺るがす音が鳴り響く。

「それとも、苦しいのかな？」

　くすりと微笑み、彼は一瞬冷酷な輝きを翠の瞳に浮かべた。


「よく言ったものだね、『雷』とは」


　『雷』――『神鳴』。

　天空を覆う雲より遥か高みより、下る『神の鳴く声』。


　神の行いは世界を揺るがす。

　その吐息は嵐に。
　涙は雨に。

　そうして、神は――『神』と呼べるモノは世界を創り出した。


　人間は天地を揺るがす光と音を神の裁きと畏れる。

　神の鉄槌。
　神の一矢。

　それに撃たれ、貫かれる者は神の怒りに触れた者として。

　だが、彼は畏れもせず、地上にありながら見下す態度で応じる。


「『運命』だなんて下らないものに踊る気は僕にはないよ」

　そして、彼は薄く笑う。


　ぽた。


　雨が降り始める。
　やがて雫が落ちてくる間隔が速くなり、まるで糸や針を思わせる光景が広がった。


　雨で全身を濡らしながら、青年は平然と笑って立っていた。


「僕は何者の支配も受けないよ」




　その呟きに異を唱えるが如く轟いた雷鳴に、世界は震えた。