寂寥とした世界。 荒れた大地が剥き出し、わずかな生えた緑は時折降る雨を待ち望んでいた。 「ふうん、ここが『下界』か……」 突如、何の前触れもなく、大地に影が落ち、一人の青年が現れた。 彼はゆっくりと周囲を見回した。 そして、足元を見やり、地面の感触を確かめ、埃っぽい風を受けて、かすかに笑った。 「ま、『上』よりは楽しそうかな?」 荒廃した大地は死の影が色濃い。だが、それゆえに生に対して貪欲だ。 青年がいた豊穣と光に満ちた世界とは大きく違う。 少し場所を変えれば、この荒れた光景とは全く違うものが見れることは彼も知っていた。 それは『上』に似ているかもしれないが、だからこそ、その地で生きる者たちの差異は大きく現れる。 (少なくとも、僕は『こっち』の方が気に入ったな、うん) 満足げに一つ頷いた瞬間、彼の周囲に幾つもの影が落ちた。 それに気づいて、彼はわずかに表情を歪めた。 「……ヤだなぁ、僕、あんまり見下ろされるのって好きじゃないんだよねぇ」 そう彼が呟くのと、影の持ち主たちが大地に降り立ったのは同時だった。 大地に舞い降りた者たちを彼はゆっくりと観察者の眼差しで見回した。 清廉な白い美貌。 染み一つない純白の翼を背に、光を纏う衣に身を包んだ神の忠実なる手足。 一人一人の造作は違うのに、全く同じ印象を受けるのは、穏やかな、すべてを甘受するような微笑みのせいだろうか。 (全く、これだから、天使ってヤツらは……) 呆れ半分、嘲り半分。 そんな心持ちで彼はくすりと笑う。 「そんなに僕が気になるのかなぁ」 彼は遥か次元を隔てた天の高みに存在する者に向かってくすくすと笑った。 「僕は、全然興味ないんだから、構わなくていいのにさ」 「黙れ、異端者よ」 鋭さを帯びた声音に、彼はゆっくりと視線を巡らした。 白き翼を持つ者――天使たちは彼を包囲して、手にした剣を差し向けていた。 「全能なる神に背く咎人よ、自らの罪を知るが良い」 「この世界に背反者は存在してはならない」 「災禍を招く前に、神の前に屈するが良い」 「潔く滅びを受け入れるのだ」 淡々とした宣言を終えた瞬間、閃光が世界に満ちる。 すべてを白く染め上げる、圧倒的な力。 それは破壊というより浄化。 そして。 「……君たち、見かけによらず好戦的なんだよね」 呆れた響きに、一瞬、天使たちの顔が強張った。 次の瞬間、光が消失する。 代わりに現れたのは――漆黒の、月のない夜の闇。 そして、闇はふわりと解け、雪のように舞い落ちる。 否、舞っているのは漆黒の雪ではなく、羽根。 大地を闇に染め上げる、漆黒の羽根。 「……バカな……」 思わずといった様子で、天使の一人が呟きを零す。 それを耳にして、彼はくすりと笑った。 「君たちじゃ僕の相手は無理だよ」 そして、荒野は闇に支配される。 |
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