「……なのかしらねえ」 ぼんやりしていたところに話しかけられた彼女は我に返って目を瞬いた。 「え、何……?」 心持ち、首を巡らして見上げると、背後に立っていた姉は小さく笑った。 「もう、相変わらず、ぼんやりしちゃって」 温かさを含んだ声に、彼女も笑い返す。 「だって、気持ちいいんだ」 「そう?」 「うん」 幼い子どものように頷く妹に微笑んで、姉は再び妹の長い黒髪を櫛で梳かしていく。 さらさらと気持ち良く流れる髪は梳かすたびに光沢を増していく。 「……あなたってホント変な子ねえ」 「何、いきなり」 「だって、普段からちっとも女の子らしくないし、おしゃれにも興味ないし、この髪だって」 梳かしていた手を止め、姉は背後から妹を覗き込んだ。 「伸ばしているのは切るのが面倒臭いからでしょ?」 妹は無言で否定しない。 くすりと笑って、姉は再び櫛を動かし始める。 「なのに、こうして櫛を通すのは気持ちいいっていうんだもの」 「――だって、そうなんだから仕方ない」 どこか拗ねたように言い放つ妹に姉は控えめな笑い声を零した。 そうしていても、櫛を持った手は止まっていない。 「こうしているとねえ」 「うん?」 「まるで動物を撫でているみたい」 数秒の間があって、妹は抑揚のない声で答えた。 「……私は犬か猫?」 次の瞬間、姉は堪え切れず、吹き出した。 座り込んでお腹を抱えてまで笑い出す姉を憮然とした眼差しで見つめ、妹は口元を引き締める。 「ふ、ふふっ、……ああ、ダメ。我慢できない……っ!」 目尻に涙まで滲ませる姉に、妹はついに口を開いた。 「姉さん、笑いすぎ」 「だ、だってっ、お、おかしすぎ!」 笑い続ける姉から視線を外して、妹は溜め息を吐いた。 それに気づいて、姉は呼吸を整え、涙を拭う。 「……ごめんね」 そして、姉はふわりと笑って妹を背後から抱き締めた。 「でも、あんまり可愛いから」 「……」 益々、むすりと黙り込む妹に姉はあやすように頭を撫でる。 「ホント、あなたが好きになる人ってどんな人なのかしらねえ」 「――――何、それ」 楽しそうに姉は笑って答えた。 「ふと思っただけ」 「……幸せボケ?」 姉は近々結婚する。 だから、わざと妹は皮肉を込めて言ったのだが、姉の方が一枚上手だった。 「そうね。だから、今度は自慢の妹にも幸せになって欲しいのよ」 そして、微笑んだ時の姉はまるで天使のように綺麗だった。 |
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