星に願いを 後編





――翌日。
 キラは自分の考えが甘かったことを知った。
 自身がある程度の注目を浴びることは覚悟していた。
 何せ、隣に立つのがオーブ現代表だ。
 自然と人々の視界に入ってしまう。
 しかし。
(こんなことになる前に誰か止めてよ……)
「キラ、私の話しをちゃんと聞いているか!?」
「はいはい、聞いてるよ」
「『はい』は一回だ!」
「はいはい、じゃなくて、はい」
 答えて、キラは大きな溜め息を吐いた。
 どうも最近溜め息の吐く回数が多いような気がするのは果たして気のせいだろうか。いや、気のせいではあるまい。
 目下のところ、その原因となっているのは目の前で酔って絡んできている金髪の少女だ。
 切々と語るカガリにおざなりに相槌を打ちながら、キラはもう一度溜め息を吐いた。
 元々、パーティーなどの社交界には興味がないカガリだ。その主題が自分の誕生日であるのに、一緒にいて欲しい肝心の相手がいなくて最初から機嫌は宜しくなかった。
 だからと言って、この状況は如何なものか。

「カガリ」
「何だ」
 不意に真剣な顔で呼びかけられ、カガリは自分の話しを一時中断する。
「あのね、カガリの気分は分からなくはないけど、止めた方がいいよ」
 反論を許さない静けな口調でキラは断言した。
「自棄酒は」
 一通りの挨拶周りを終えたカガリはキラが気づいた時にはすでに数杯のワイングラスを空けていた。
「……」
 キラとカガリは数秒間見詰め合った。
 ややあって、カガリの琥珀の瞳が潤み出す。
「だって……っ!」
「カガリ」
「だって、アスランが悪いんだもん――っ!!」
「あー、はいはい、そうですねえ」
 突然、子どものように泣き出したカガリに、キラは慣れた様子で抱き寄せ、ぽんぽんと背を撫でてやる。
 ちなみに、パーティはすでに終盤に差し掛かり、主役であるカガリを置いて、盛り上がっていた。
「アスランもいないし、帰る?」
「帰る」
 即答だった。
 キラはにこりと微笑む。
「うん、帰ろうか」
 本当なら最後にカガリの挨拶で締め括ることになっているのだが、どうとでも上手く誤魔化せるだろう。
 カガリに気分が悪くなった振りをさせ、キラはそのまま会場の入り口に向かった。
 送迎用の高級車に乗り込み、静かに走り出すと、思わず安堵の吐息が零れた。
 そして、酔いが回り、眠気に襲われたカガリの危なっかしい様子に気づいて、キラは肩を貸しながら話しかけた。
「カガリ」
「んー」
「アスランだって本当は来たかったはずだよ」
 そっと告げられ、カガリの表情がふと和む。
「知ってるー。アイツ、すっごく情けなさそうな顔してた」
「そっか」
 小さく笑って、キラは視線を外に移し、何気なく空を見上げた。
 晴れた夜空にはわずかな星。
 かつて宇宙で見た幻想的な光景とは比べものにならない、闇の空。
 小さな、小さな輝きは薄い雲にでさえ容易く覆い隠されそうで、とても頼りない。
(それでも)
 それでも、星は輝いている。
 誰に気づかれなくても、星は輝いてそこに在る。
 それはまるでキラがラクスを、カガリがアスランを想うように似ている。
「キラ」
「うん?」
 視線を夜空に向けたまま、キラは応じた。
「今日はありがとな……」
 カガリの言葉に、キラはゆっくりと首を巡らした。
 目を瞑り、微睡むカガリはたどたどしく言葉を紡ぐ。
「誕生日……一緒にいてくれて……」
「お互い様だよ、それは」
「そうか?」
「そうだよ」
「来年」
 ぽつりとカガリは呟いた。
「来年は一緒にいられたらいいな」
 誰と、とは言わなくても分かった。
 言葉が向けられた先はキラにであり、カガリ自身でもあった。
「そうだね」
 静かに微笑んで頷いたキラは視界の先に見慣れた邸の影が近づいてくるのを見つけた。
「カガリ」
「んー?」
「そろそろ着くけど、起きれる?」
「起きる」
 カガリは緩慢な動作で頷き、キラに寄りかかっていた身を起こした。
 程なくして、車は邸の正面口で止まる。
 車から降りたキラは邸の様子がいつになく静まり返っているのに気づいた。
 場所が郊外なため、元々閑静ではあるのだが、今夜は少し違う。
 どことなく、緊張感が漂っているのは気のせいだろうか。
(それに)
 出迎えがない。
 キラたちの帰宅はすでに正門を通り抜けた時点で伝わっているはずだし、警備の人間も常と変わらない様子だった。
 否、一つだけ。
 警備の人間が妙なことを言っていたのだ。

『誕生日おめでとうございます。今夜は楽しんで下さいね』

 これが行きのことなら、分かる。
 しかし、帰りの、つまり、ついさっき言われたのだ。
 訝しげに思い悩むキラを余所に、カガリは無頓着に扉を開けようとした。
 鍵がかかっていない扉は容易に動いた。
 押し開かれていく扉と、歩みを進めるカガリに一瞬遅れて、キラは反応した。
「カ、カガリ!」
 慌てて自身が感じた違和感を訴えようとして、カガリを追ってキラが邸内に一歩足を踏み入れた瞬間。



「Happy Birthday,Kira&Kagari!!」



 幾つものの弾ける軽快な音。
 次いで頭上から降り注ぐ紙吹雪。



 茫然とキラとカガリは立ち尽くした。
 きっと二人とも同じような間抜けな顔をしているんだろうなと頭の片隅で思いながら、それでも驚きのままに周りを見回す。
 そして、二人は見つけた。
「ラクス」
「アスラン」
 呼びかけは同時だった。
 よほど驚いた顔をしていたのだろう。
 不意に、明るい笑いの渦が生まれた。
 エントランスホールにいたのはラクスとアスランだけではなかった。
 ミリアリア、サイ、マリューを含めたアークエンジェルの面々。
 ディアッカ、イザーク、バルトフェルトを含めたプラントの面々。
 そして、もちろんキサカ、マーナを含めたオーブの面々。
 キラとカガリの見知った顔ばかりが揃っていた。
「驚きまして?」
 くすくすと笑いながら側に寄ってくるラクスを見つめているうちに、ようやくキラの思考が再起動し始める。
「ラクス……」
「はい」
 にっこりと微笑む少女は夢でも幻でもない。
 隣にいるカガリに至っては目を瞠ったまま、虚しく口を開閉させている。
「大丈夫か、カガリ?」
 そんな様子を気遣ってアスランが声をかけた瞬間、カガリは復活した。
「アスラン! お前、何でここにいるんだよ!?」
 当然の疑問だった。
「何でって……」
 アスランは弱った表情を浮かべながら答えた。
「二人の誕生日を祝うためだよ」
「な! だ、だって、お前来れないって!」
「……誕生祝いのパーティーには、な」
「そ」
 見る見るうちにカガリの顔が赤くなっていく。
「そんなこと聞いてないぞッ!!」
「言ってないから」
「アスラン!!」
 完全に痴話喧嘩になりつつある二人に、周囲から野次が飛ぶ。
「煩い!」
 カガリが一喝しても赤面している状態では迫力にかけている。
 そんな双子の少女を見ているうちに冷静さを取り戻したキラは傍らで微笑んでいるラクスをちらりと見やった。
「……最初から計画してたんだ?」
 その声には無意識のうちに拗ねた響きが混じっていた。
 それに気づいて、ラクスは控えめな笑い声を上げる。
「えぇ、ごめんなさい。どうしても秘密にしたくて」
 無邪気な謝罪に、キラは溜め息を吐いた。
 しかし、今度の溜め息は数時間前まで吐いていたものとは違う、満ち足りた幸せが含まれたものだった。
 自然と頬が緩み、キラの顔に柔らかな微笑が浮かんでいた。
「驚いてくれました?」
 再度の質問に、キラはゆっくりと頷く。
「うん、驚いた。すごく、驚いたよ」
「まあ、では大成功ですわね」
 にこにこと微笑むラクスに、キラは静かに微笑みを返した。






 Happy Birthday.

 生まれてきてくれたことに感謝を。




テーマは「アスランとラクスに振り回されるキラとカガリの誕生日ネタ」。
長いくせに、全くありきたりというか、ヤマもなければオチもない仕上がりに。<爆
しかも、キラとカガリしか目立っていない話になってしまいました〜。
なんていうか、キララク、アスカガでラブラブな誕生日もいいと思うんですが、仲間も集まって一緒に祝ってくれるのもいいなあと思うんですけど……。
でも、二人の誕生日だから大丈夫……?

水衣さん、ど、どうにか及第点はいただけますでしょうか?<ドキドキ
これからも末永くお付き合い下さいませ〜。



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