「やけに賑やかだなと思ったら……」 戸口に立ったキラは騒々しい部屋の中にもう一度を視線をやって、溜め息を吐いた。 慌しい人の気配。 抗う声と窘める声。 なんとなく、このまま立ち去りたい気分になる。 だが、キラの判断は一瞬遅かった。 「キラ!!」 弾けるような呼びかけに、キラは視線を上げて、そして固まった。 「いいところに来た!」 安堵の笑みを浮かべて、カガリはキラに駆け寄ってくる。 「カ、カガリ……!?」 キラと血の繋がった少女は綺麗に着飾っていた。 柔らかなムーンイエローのドレスに、緩やかに舞うシフォンを重ねた姿は実に可愛らしい。 普段、どちらかというと動き易さを優先させる装いを好むカガリに慣れているだけにキラは茫然となる。 「お、女の子……」 その瞬間、カガリの表情が一変する。 「キラ! お前、まだ、それを言うか!!」 これで通算三回目。 険しい顔つきで睨みつけ、カガリは唸る。 「え、い、いや、えーと、随分と可愛らしい格好だね?」 慌てて取り繕うかのようにキラは微笑みを浮かべてみるが、カガリの鋭い表情は変わらなかった。 「お前といい、アスランといい、失礼な奴らだなっ!」 渇いた笑みで誤魔化そうとして、キラはふとあることに気づく。 「……アスランって」 幼馴染みの名前がここに出てくることにキラが訝しげに見つめた瞬間、カガリは慌てて口を開いた。 「まあ、それはいいとして……いや、良くないが……とにかくっ!」 そして、カガリは勢いよくキラに詰め寄った。 「お前も出席な!」 (無理やり話題を変えたね) 内心、突っ込みつつ、キラは当然の疑問を尋ねた。 「……何の話?」 ドレス姿で、出席と来れば、なんとなく分からないでもないが、それで何故自分にまで話が回ってくるのか。 「明日に控えた誕生祝いのパーティのことですよ」 キラの問いに答えたのは大らかな声だった。 最終の試着という、まさに大仕事を終えた風情のカガリ付きの侍女の登場にキラはきょとんと目を瞬いた。 「誕生祝い……?」 呟き返して、キラは不意にポンと手を打った。 「あ、そっか。明日か」 「キラ、お前なぁ、一応自分の誕生日だろう……」 暢気なセリフにカガリは呆れて溜め息を吐いた。 先ほどの失礼な発言は目を瞑ることにしてくれたようだ。 「そうは言うけどね、昨夜まで仕事に追われていたんだよ」 「ふぅん?」 一瞬、カガリの琥珀の瞳が煌く。だが、すぐに不敵な笑みを浮かべた。 「まあ、いい。とにかく、お前は私のエスコート役だ!」 「……は?」 「何だ、文句でもあるのか?」 「いや、そうじゃなくて……エスコートって、何?」 キラの質問にマーナがすかさず答えた。 「カガリ様が入場なさる時の相手役のことでございます」 「いえ、それは分かるんですけど……」 そして、キラはカガリを見やる。 「どうして僕なの?」 こういった改まった場でのエスコートとなると、その役を務める人間はだいたい決まってくる。 身内や、それに準ずる人間だ。もちろん、例外もあるだろうが。 キラの疑問にカガリは憮然として答えた。 「キラは私の身内だ」 確かに、キラとカガリは血の繋がった双子だ。 ただし、公的には発表されていない。それの証となるのが、亡きウズミの言葉と一枚の写真しかないためである。 その気になれば、血液検査なり、何なりして調べることもできるが、そこまでする必要はないと二人は判断した。 調べることによって、自分たちも知らない過去が暴かれ、周囲に迷惑をかけることを恐れたためだった。 特に、キラは戦時中おぼろげに知った事実もあり、そのことに関して触れられるのを厭っていた。 ともかく、世間にとってキラは一般人であるに過ぎない――そう本人は思っている。 「カガリ……アスランは?」 溜め息混じりにキラが訊いた瞬間、カガリの表情が歪む。 「カガリ?」 「…………忙しいんだと」 ぼそりと不機嫌そうな答えが返って来て、キラは驚いた。思わず、側に控えているマーナに真偽を問う眼差しを送った。 「先ほど欠席の連絡がございました」 「……それは、残念だったね」 「何が」 据わった低い声に、キラはたじろぐ。 (アスラン……一体、何やってるんだよ) キラは心の中で無二の親友を罵った。 自分の恋人の誕生日くらい、死ぬ気で休暇を取らなくてどうする。 そう思った瞬間、キラは自身も思うところがあり、落ち込む。 いきなり落ち込んだキラを見て、何を思ったかマーナが口を挟んだ。 「カガリ様、キラ様もご予定おありなのでしょう。ですから、ここは大人しく先ほどの候補の中からお選び下さい」 「嫌だ!」 カガリは即答した。 マーナの言う候補とは今回の宴に出席する人間の中で、カガリと年齢的にも立場的にも釣り合いが取れている男性たちのことだった。 つまり、一種のお見合い状態だ。 これでアスランが出席していたら、何も問題はなかったのだろうが、それが欠席である。 カガリでなくても不機嫌になろうというものだ。 「あんな奴らで間に合わすくらいなら、キラで充分だろう!」 何気にひどい言葉だった。 「カガリ、あのね」 しかし、カガリの言葉は止まらなかった。 「それに、キラだってラクスに振られたんだし!!」 次の瞬間、キラの顔は引きつった。 「カ、カガリ……?」 カガリはじろりとキラを睨みつける。 「昨夜まで仕事を追われてたってのは明日のためだろ。で、今、暇そうにしているってことはラクスが来ないんだ。違うか?」 否定できないキラだった。 思わず、いじけて視線をあらぬ方向にやる。 振られたというのは語弊があるが、明日会えるはずだったラクスと会えなくなったことは間違いではない。 キラとて自分の誕生日を頭から忘れていた訳ではない。 ただ、重要だったのは自分の誕生日であるというより、それを理由にラクスに会えるということの方がキラにとって意味があっただけで。 それが会えないということになって、キラの頭は一種の抜け殻状態だった。 脳裏に浮かぶのは困ったように小首を傾げる少女の顔。 『明日、ですか? 明日は――』 言い難そうなラクスに慌てて断ったのはキラの方だ。 (もっと、早くに言っておけば良かったな――) 大きな溜め息を吐いて、キラは肩を落とした。 「ってことで、キラ明日は付き合ってもらうぞ」 「……」 キラは投げやりに頷いた。 (もう、どうとでもしてよ……) |
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