『彼』を見つけた時、とても不思議な気持ちだった。 『彼』が何者なのか、なんて、すぐに分かったし、『彼』の進むべき途も、私が果たすべき役割も分かっていた。 それでも、『彼』は私――月弓ネオンの原型『黒上音音』の義弟『ゆう』を原型とする存在で。 「シグマ」 そっと呼びかけ、ネオンは麗らかな日差しに包まれて眠るシグマの顔を覗き込んだ。 さらりと肩から滑り落ちた長い髪がシグマの頬に触れる前に留めて背中に押しやる。 初めて対面した時、『彼』は封印の大時計の前に置かれたピアノを弾いていた。 『音使い』の黒上家――その御曹司として存在を確立している『彼』は楽器の扱いに手馴れている。 「私、ずっと待っていたんだよ、シグマ」 その時、紡いだ言葉を繰り返し、ネオンは瞳を伏せた。 『シグマ』の名を冠し、その役割を理解しながら『月弓ネオン』と名乗って、彼の側で過ごすうちに生まれた想い。 「待っていたんだけど、な……」 呟く声が少しずつ力を失っていく。 穏やかに繰り返される日常。 シグマと通う学園での日々。 待っていた理由なんて、もう分からない。 シグマとして修復目標の時を? それとも、目の前の彼に会える時を? だが、分かっていることは一つある。 この平和で穏やかな世界の時間。 それは本来、ネオンが得て良い時間ではない。 だから、望んではいけないのだ。 「ずっと……このまま、だなんて……」 シグマが眠るソファの足元に寄りかかるようにネオンはずるずると身を寄せ、瞳を閉じた。 幸せな夢はいつか覚めると分かってる。 それでも、少しでも長くと願うのは罪なのだろうか。 『彼女』が『彼』の生を願ったことと同じように。 「シグマ、私は――」 ゆっくりと瞳を開け、ネオンは自身の手を見つめ、胸元を抑えた。 「ごめん、ね……私、それでも、私は」 「……ネオン?」 「あー、やっと起きた! シグマってば、ホント全然起きないんだから〜」 「起きない、って、今、何時だ?」 「五時」 「五時!?」 「せっかく持ってきたドーナッツ、シグマの分、食べちゃったからね!」 「……太るぞ」 「太りませーん!」 「全く。……悪かった」 「シグマ……?」 「僕が起きるのを待っていたんだろう?」 「――」 「ほら、今日の分の訓練をしよう」 「うん……、ちゃっちゃっと逢魔退治でカロリー消費!」 「……」 「なぁに、溜め息なんか吐いちゃって」 「いや、何でもない。行こう」 「うん」 行くよ、ずっと、一緒に。 『貴方が望む未来を私に見せて』 たとえ、この身が消えてしまっても――。 |
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