Web拍手SS集―8―

SS番外編

『メリクリ after編』



「メリークリスマス、って、おい、お前たち何やってんだ!?」
 元気の良い声が一転して、叫びに変わった。
 ゆるりと首を巡らしたキラは、真っ赤になって肩を震わしている金髪の少女と頬を赤らめ顔を背けている幼馴染みの姿を見つけて、にこりと笑いかけた。
「メリークリスマス、カガリ、アスラン」
 動揺の欠片も何も、全くありもしない。
「あぁ……めりーくりすます……」
 ぼそぼそと応じるアスランに、隣のカガリが強く睨みつける。
「何、暢気に挨拶してるんだよ、お前はっ!」
「カガリは、今夜も元気だね〜」
「キラっ!!」
 弾かれたように返ってくる怒号も、キラには通用しない。
 にこにこと笑って受け止めている。
 果てしなく、ご機嫌だ。
「……いらっしゃいませ、カガリさん、アスラン」
 キラに寄り添うように立っていたラクスが、ほんのりと白い頬を紅潮させたまま、それでも、礼儀正しく歓迎する。
「あ、え、えぇと、お邪魔します」
 律儀な性格のアスランが、戸惑いながらも会釈した。
 くすりとキラは小さく笑った。
「うん、ちょっとだけ邪魔だった」
 悪意がないと分かるのは兄弟同然の仲だからか。
「……キラ」
 頭痛を覚えたように額を抑えるアスランに、キラはニッコリと笑い返した。
「っていうか、お前、こんなトコで何やってんだよ!?」
「何って、キ」
「うわああああ、言うな! 言わんでいいっ!!」
 咄嗟に、制して、カガリは脱力した。
 羞恥に琥珀の瞳に涙が滲んでいる。
「カガリが訊いてきたくせに」
 ぽつりと呟くキラを鋭く睨みつけても、キラはけろりとしている。
「可愛くない。お前、可愛くないぞ!」
「……可愛いと言われて喜ぶ男はいないと思うけど」
「いーや、昔のお前はもっと可愛かった!」
 断言され、キラは困ったように苦笑する。
「そう思わないか、アスラン!?」
「……まぁ、確かに」
 重々しく肯定した親友に、キラの笑みが引きつる。
「アースーラーン?」
「だろ!」
 我が意を得たりと胸を張るカガリに、ラクスはくすくすと笑い声を零した。
「キラは優しげな顔立ちをしていらっしゃいますものね。双子と申しても、どちらかというとカガリさんの方が凛々しいような印象を受けますし」
「……ラクス?」
 じとりと見ても、ラクスはにこりと笑い返すだけだ。
「私は姉だからな!」
 当然だと頷くカガリの仕草に、アスランは気づかれないように笑みを零す。
 カガリの騒ぎ立てる声で、子どもたちも気づいたのだろう。
 わらわらと現れて、駆け寄ってきた。
「あー、アスランだ、アスラン!」
「カガリもいるー」
 一気に賑やかになる周囲に、ラクスは柔らかな笑顔を浮かべた。
「さあ、全員が揃ったことですし、パーティーを始めましょう!」



 ほどなくして、全員の唱和が乾杯の硝子音と共に、夜の空気に響き渡った。









『新緑の朝』after編


 コンコン……。

 軽くドアを叩いても、室内からは何の音もしない。
 ドアの前に立ったラクスは少し考えて、もう一度ドアを叩く。

 コンコン……。

 二度目のノックにも応答がないことを確かめ、ラクスは静かにドアノブを回した。
 そっと覗き見ると、寝台の上から滑り落ちかけたシーツの端が見えた。
 そのまま、足音を殺して部屋の中に入り込む。
 ゆっくりと寝台の上を覗くと、そこには気持ち良さそうに眠る少年の顔。
 出会った時より幾分か大人びた顔つきになったといえ、無防備な寝顔はまだ幼さをわずかに残している。

「キラ」

 そっと呼びかけてみるものの、ぴくりとも動きもしない。
「キラ、起きて下さい。朝ですわ」
 優しく揺り動かしても、小さく唸って、寝返りを打つ始末だ。
「キラ、起きて下さいな」
 声の大きさは変えず、少し距離を縮めてラクスは呼び起こした。
「ん……後五分……」
 ようやく返ってきた答えに、ラクスは静かに苦笑を零す。
「そうして差し上げたいのですけど、今朝は素直に起きられた方が良いと思いますわよ」
「ん〜……」
 まともに答えぬまま、キラはシーツをしっかりと握り締めた。
 無言の返答を受け、ラクスは嘆息した。
「致し方ありませんわね」
 切り札の出番だ。
 蒼い瞳がきらりと悪戯めいた光に輝いたのは一瞬。
 ラクスはゆっくりと上半身を倒して、いまだ眠りにしがみついているキラの耳元に唇を寄せた。



「起きて下さい……あ・な・た」



 ……。

 …………。



「っええええええええええええええええええええ」


 唐突に訪れた奇妙な叫びに、ラクスは咄嗟に耳を塞いでいた。
 同時、シーツがずるりと大きく滑り落ち、それに攫われるように、キラの体が寝台から消える。
 重く、鈍い音に気づいて、ラクスは蒼い瞳を軽く瞠った。
 そして、寝台の反対側を覗き込む。
 シーツごと転がり落ち、紫色の瞳を涙目にしながら、顔を赤らめているキラに、不意にラクスはにこりと微笑みかけた。
「おはようございます、キラ」
「あ、ぅ、え、っあ……お、おはよう、ラクス」




 ラクスの切り札が、実はまだあることをキラは知らない。










SEED 総合TOP





SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送