Web拍手SS集―3―

恋愛戦争編

同窓会編


 キラは寝起きが弱い。
 頭がしっかり働きだすまでに時間がかかるのだ。
 普段から、ぼんやりしている印象を受けるのに、それ以上に呆けた様子で起きてくる。
 そのため、キラは状況を理解するにしばしの時間を要した。
 食堂には顔なじみの面々が揃っていた。
「キラ、遅いぞ!」
「相変わらずだな」
 微妙に趣きが違う苦笑を向けてくるのはカガリとアスラン。
「って、おい、ホントに起きてるか?」
「キラ、大丈夫?」
 異口同音で心配してくるのはディアッカとミリアリアだ。
「突っ立っていると邪魔だ。さっさと座れ」
 無愛想に的確に言い放つのはイザーク。
「キラもお食事をご一緒致しましょう」
 にこりと静かに微笑むのはラクスだった。
 ぼんやりとした様子でキラは頷いて、勧められるまま空いていたラクスの隣席に座る。
 そして、起き抜けで働かない頭で考え込み、キラは数時間前の記憶を呼び起こすことに成功した。
 年一回更新される休戦協定のために開かれる会合。
 キラを含めた全員がそのために何かしらの役目を負って集まったのだ。
(そっか……徹夜で仕事を終えて、そのあと――)
 会合の場に向かうアークエンジェルに飛び乗り、部屋に入った瞬間、寝てしまったのだろう。
 時計の時刻が夜の七時であることを見ても、たぶん間違いない。
 そんなことをつらつらと考えていたキラに、おっとりとした声がかかる。
「キラ」
 柔らかな声に導かれるまま、キラは首を巡らした。
 そして。

「はい、あーん」

 反射的にキラは口を開いていた。

 ……もぐもぐ、ごっくん。

 咀嚼して食べ終わった瞬間、キラの意識が完全に覚醒した。
「ラ、ラクスッ!?」
「はい?」
 揺るがない微笑みで見つめられ、キラは真っ赤になって言葉を失う。
(はい? じゃなくて、今……ッ!)
 視界の隅に、硬直している面々を認め、ますますキラの顔が赤くなる。
 その反応に、ラクスはくすりと笑って、再びキラの口元に料理を運んだ。
「はい、あーん」
「ッ!!」





 天使のような微笑みに、降服するのは時間の問題だった。



同窓会編


 目の前の光景を一言で評するなら、『衝撃的』。
 真っ赤になってうろたえる少年と、綺麗な微笑みで追い詰める少女。
 必死の攻防も見ている第三者からしてみれば、恥ずかしく、羨ましく、そして馬鹿らしいものだった。



「……相変わらず、熱いね〜。な、ミリィ?」
 ちらりと隣にいるミリアリアに視線をディアッカは送った。
「しません」
「まだ、何にも行ってないけど」
「アンタの考えることなんて単純。しませんったらしません」
 ばっさり切り捨てて、食事を再開するミリアリア。
「そんな連れないことを」
 わざとらしい溜め息を吐くディアッカに、ミリアリアは軽く睨みつけた。
「怒るわよ」
「ミリィ〜」
「しませんったら、しません!!」
 はっきりと宣言したミリアリアの頬はほのかに赤かった。



「何だよ、アスラン、その目は」
 じろりと睨まれて、アスランは無意識のうちにカガリを見ていたことに気づいた。
 カガリがほんのりと頬を朱に染めているのは双子の弟(カガリ主張)とその恋人である少女のせいだろう。
「いや……」
 アスランは視線を逸らし、ぼんやりと手元の料理を見つめる。
 その様子を見ながら、カガリは食事を再開した。
 目の前の光景は見なかった振りを貫くことにする。
 不意に、何かを考え込んでいたアスランはおもむろに一つ頷いた。
「カガリ」
「何だ」
 首を巡らした瞬間、カガリは硬直した。
「はい、あーん」
 目の前には満面の笑みを浮かべたアスラン。
「アアアアアアアスラン!?」
「ん?」
 双子の弟と同じ状況に追い込まれたことに気づいても、後の祭りだった。




 そして。




「お前ら全員恥を知れ――――ッ!!!」



 激しい怒号が食堂を震わした。



オマケ


「あら、食堂に行ったんじゃなかったの?」
 つい数分前に夕食に行ったはずの少年がブリッジに戻ってきたので、彼女は不思議そうに尋ねた。
「いえ、行ったんですけど」
 そして、少年は疲れたように溜め息を吐く。
「?」
「バカを見て、わざわざ騒ぎに巻き込まれることはないと思って」
 その瞬間、遠くから聞こえた怒号に彼女はすべてを察した。
「……そうね」
「はい」
 そして、少年――サイはもう一度溜め息を吐いた。




恋愛戦線編


「アスランのバカ野郎――ッ!!」
 盛大な罵声と共に、羽枕が宙を飛んだ。
 図らずも自分の方に飛んできた羽枕を軽く避けて、キラは投げつけた相手を見やった。
「カガリ……」
 呼ばれたカガリは肩で息をしながら、キラを睨みつけた。
「大体、キラもキラだ!!」
 勢い良く詰め寄ってくるカガリに圧倒され、キラは一歩退く。
「お前もいいのか、あんな風に良いようにからかわれて!」
 言った瞬間、その時のことを思い出したのかカガリの顔が真っ赤になった。
「……からかってないと思うけど」
 ぼそりとキラが言えば、カガリはますます表情を険しくさせた。
「尚更、悪い!!」
 そして、拳を強く握り、カガリは細い肩を震わせた。
「あ、あんなあんなことを人前で……っ!」
 とりあえず、静かになったのを確認して、キラはそっと溜め息を吐いた。
(まあ、確かに恥ずかしかったけどね……)
 思い出すのは約一時間前の夕食での出来事。
 キラはラクスに、カガリはアスランに料理を食べさせてもらうという事態に陥ったのだ。
 おかげで、料理の味なんてさっぱり覚えていない。
(どうせなら、二人っきりの時が良かったなあ……)
 それなら、思う存分やってもらうのに。
 のほほんとキラが思っていると、不意に不穏な呟きが届く。
「悔しい」
 ゆっくりとカガリの様子を伺うと、双子の少女は凄味のある微笑を浮かべていた。
「カ、カガリ?」
「キラ」
「え、何?」
「反撃するぞ!!」
 高らかな宣言に、キラは一瞬呆けた。
「はんげき?」
「そうだ、反撃だ! いつも主導権を握られてたまるか!! 今度はこっちがやり返すんだ!」
 力強く拳を振り上げる勇ましい姿に、キラは思わずパチパチと拍手した。
「……じゃあ、カガリはアスランに食べさせてあげるの?」
(むしろ、喜ばせるだけだと思うんだけど)
 素朴な質問だった。
 そのとたん、カガリは硬直した。
「……わ、私のことよりお前の方が問題だろう!」
「え、僕?」
「そうだ、男なんだからラクスに主導権握られて悔しいだろう!」
 決め付けられて、キラは曖昧に微笑む。
 カガリの言い分でいくと、アスランが主導権を握っている状況は正しいのではないのか。
 しかし、今のカガリに何を言っても無駄だ。
「私が応援するから!!」
 琥珀の瞳を輝かせて告げるカガリに、キラは苦笑する。
 これが自分のことになったら、思いっきり動揺するに違いない。
「うん、ありがとう」
「じゃあ、まずは作戦だな!」
 うきうきと考え出すカガリに気づかれないように、キラはくすりと笑った。





(ラクス、驚くかなあ……)












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