Web拍手SS集―11―

アークエンジェル航海日誌編

古今東西編 1





「世話好き」
「お人よし」
「頼りになる」
「甲斐性なし」
「ゆ、優等生」
「頭でっかち」


 その瞬間、キラは思わず叫んでいた。
「どこで、そんな言葉を覚えたの!? っていうか、何で否定的な訳?」
 突然の言動に、正面に座っていたラクスはきょとりと蒼い瞳を瞬いた。
「思ったことを言ったまでですけど?」
「〜っ!」
「さあ、次はキラの番ですわよ」
 そして、優雅に紅茶の注がれたティーカップを口元に運ぶラクスをキラは脱力した。


「……真面目」
「神経質」
「家族」
「とんちんかん」
「強い」
「勘違い」
「カッコいい」
「見掛け倒し」


「……ねぇ、何か怒っている?」
「いいえ、まさか」
 ニッコリと微笑む姿が愛らしいだけに、キラはぐったりと項垂れた。
「僕は平気だよ。だから」
「嫌ですわ、キラったら。わたくしは、わたくしの思うところを申し上げているのです。ところで、降参ですか?」


「……寡黙」


「寡黙というより、口ベタの方が正しい気がしますけれど」
「次、ラクスの番!」


「では、鈍感」
「器用」
「不器用」


「……ええっ? 器用だよ?」
「キラの仰るのとは別の意味で不器用ですわよ」





「…………で、さっきから二人して何をやってるんだ?」
 キラとラクスを探していたカガリは休憩室で押し問答を繰り返している二人に引きつった笑みを浮かべながら声をかけた。
「まあ、カガリさん」
「何って、古今東西だよ、古今東西」
「古今、東西? ……ちなみに、お題は」
 その瞬間、キラとラクスは揃って答えた。



「「アスラン」」








古今東西編 2


「無敵」
「天然」
「比翼の鳥」
「連理の枝」
「初々しい」
「青春」
「頑固」
「底知れない」
「可愛い」




「……なんていうか、聞くだけ無意味だと思うけど、それってあの二人のことですよね?」


 オーブの軍服に着がえて艦橋に戻ってきたミリアリアはマリューたちが口々に言う単語に、思わず笑みを引きつらせた。
「あら、ミリアリアさん」
 ミリアリアに気づいてマリューは微笑みを浮かべた。
「改めて、おかえりなさい」
 その言葉に気恥ずかしさを覚え、はにかんでミリアリアは頷く。
「ありがとうございます。で、何なんですか?」
「何って……ああ、古今東西よ」
「古今東西って、あのゲームの?」
 小首を傾げるミリアリアにバルトフェルトが朗らかに笑った。
「ああ、ちょっと暇潰しにな」
「暇潰しに古今東西……?」
 何でまた、そんな思いが表情に出ていただろう。
 マリューが苦笑して告げた。
「ちょっとした流行なのよ」
「はぁ、そうなんですか」
 帰ってきた時にも思ったことだが、二年前と比べてアークエンジェルの空気は極めて穏やかだ。
 決して、緊張感がないという訳でないが、安定感があるというか。
 そこまで考えを巡らして、ミリアリアは納得した。
 あの二人だ。
 このアークエンジェルの雰囲気は、あの二人に似ている。
「すごい、な……」
 ぽつりと呟いたミリアリアにマリューが怪訝そうに見つめてくる。
 それに気づいて、ミリアリアは笑った。


「アークエンジェル」


「え?」
「古今東西、なんですよね? だから」
 その瞬間、マリューは苦笑した。


「確かに、そうかもしれないわね」








怪談編 『開かずの扉』


 どこにでも『怪談』というものは存在する。
 それはアークエンジェルにもあるらしいとカガリが知ったのはフリーダムに拉致され、ようやく落ち着きを取り戻した頃だった。
 アークエンジェルの居住エリアの最奥。
 そこには『開かずの扉』があった。


「開かずの扉、ね……。全く、どこにでもそんなのあるんだな」
 独り言を呟きながら、カガリ一人は問題の扉に向かっていた。
 本当なら、キラやラクスを誘おうとしたのだが……。

「っ……あの、バカップルめ……!」

 うっかり思い出してしまったカガリは頬を朱色に染め、握り拳を振るわせた。
 苦渋の末、声をかけるのを諦めた経緯を思い出し、沸々と込み上げてくる怒りに肩が震えた。
 あれで、二人はお互い『恋人』ではないと言うのだから、怒りを抱いても当然だろう。


『さっさと告白しろ!!』


 それがアークエンジェルクルーを含む、キラとラクスを知る多くの人間の心の叫びだった。
 下手な恋人より、恋人らしい(一例:某代表と某元護衛)……一説には恋人を通り越して夫婦の領域だという人間もいる。
 カガリは溜め息を吐いて、気を取り直した。
 目の前には一つの扉。
 いつの間にか、目的地に着いていたらしい。
「ったく、『開かずの扉』どーのこーの言うが、結局、キーコードを忘れたんだろうに」
 アークエンジェルの全室は電子ロックだ。
 本来なら、キーコードはきちんと管理されてはずのだが、慌しい出航やら何やら紛失されてしまったのだろう。
「どいつもこいつも応用力が足りん!」
 そう呟いて、カガリが取り出したのは丸いピンク色のマイクロユニット――ハロだ。
 手先が器用、人間関係は不器用を地でいくキラの幼馴染みが作ったハロは何がどうなったのか、電子ロックを解除する特殊機能を備えていた。
 その主たる少女が改造したのではないかという疑いもあるのだが、当人曰く「ピンクちゃんは閉じ込められるのがお好きではないようでして」との言だ。
 真実はともかく、カガリはハロを使って開ける気満々だった。
「よーし、行けッ!!」
 毅然と指で指して命じるカガリに、ハロがポーンと跳ね降りる。

<テヤンデェ〜!!>

 電子ロックの前でハロがパタパタと留まること、数秒。
「………」
 ピカリとハロの双眼が赤く輝いた。
<マイド、マイド……!!>
「……うむ!!」
 自らの役目を果たしたことを知っているのか、そのままコロコロとハロは満足げに頷くカガリの足元を転がり落ちる。
 そして、カガリは意気揚々とドアを開けた。
 開けた先の室内は真っ暗だった。
「おっと、電気電気」
 手探りで近くの壁を探った瞬間、カガリは固まった。
 暗闇の中、突然、キラリと光る無数の点が視界に入る。
 まるでカガリの存在に気づいた何かが振り返ったような……。


「――っ!?」


 引きつったカガリの手が点灯スイッチに触れた瞬間。



「うあああああああああああ――――ッ!!!」



 アークエンジェルを震撼させる悲鳴が轟いた。




 数分後――悲鳴に駆けつけたキラとラクスは、大量のハロに押し潰されているカガリを発見した。
「まぁまぁ、ネイビーちゃん、オレンジちゃん! 最近お見かけしないと思ったら、こんなところにいらしたのですね」
 ラクスの存在に気づいて、ハロたちが元気よく跳ねて飛び回る。
「……カガリ、大丈夫?」
 ハロたちを優しく押しのけ、屈み込んでキラはカガリの安否を確かめた。
「ど」
「ど?」
 きょとんと首を傾げるキラを琥珀の瞳を潤ませて睨み上げ、カガリは叫んだ。


「どういうことだ、これは――っ!!!」









「あぁ、ついに見つかってしまいましたね」
「だな」
「もう一度、隔離……できますか?」
「難しいがやらねばならんだろう」


 落ち着いた艦橋空間のために。











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